中国共産党政府との関係を見直そう(98)。武漢で何があったのか、検証する(2)。

 2020年1月1日  

1月1日、午後11時46分、病院の監察課(共産党規律検査委員会の行政監察担当部門)の課長から「翌朝、出頭せよ」という指示が送られてきた。

海鮮市場閉鎖

2020年1月2日

朝8時すぎ、勤務交代の引き継ぎも済んでいないうちに、「出頭せよ」との催促の電話が鳴った。そして私は前代未聞の厳しい譴責を受けた。「我々は会議に出ても頭が上がらないある主任が我々の病院のアイとかいう医師を批判したからだ。専門家として、武漢市中心病院救急科主任として、無原則に組織の規律を無視し、デマを流し、揉め事を引き起こすのは何故だ?戻ったら、救急科200人以上のスタッフ全員にデマを流すなと言え。ウイーチャットやショートメールじゃダメだ。直接話すか、電話で伝えろ。だが肺炎については絶対に言うな。自分の旦那にも言うな」。私は唖然としてしまった。単に勤務上の怠慢を叱責されたのではない。武漢市の輝かしい発展が私一人によって頓挫したかのような譴責だった。私は絶望に陥った。・・・帰宅し、ドアを開けて部屋に入り、夫に「もし、私に何かあったら、しっかりと子供を育ててね」といった。夫は何のことかわからなかっただろう。

2020年1月3日

中国政府は3日、検体を破棄するか指定機関に送るよう通知。独自公表を禁止した。

台湾の報道によれば、1月2日の時点で武漢にある海軍工程大学は「原因不明の肺炎防止、外来者の校内進入の厳格な管理の実施に関する通知」を発出し、実質的に大学を封鎖していた。

李文亮医師ら8人を呼び出し「口止め」を強要。「我々は厳粛に警告する。頑なに無礼な振る舞いを続けたり、こうした違法行為を続けるのであれば、あなたは裁かれることになる。わかったか?」

2020年1月5日

上海公共衛生センターは「見たこともない新型コロナウイルスだ」と報告。

2020年1月6日

早めに人を派遣した方がよいという結論になり、1月6日に中国側に現地調査の要望を伝えると5日後に承諾の返事があった。

2020年1月7日

李文亮医師入院(その後感染が確認され2月7日死亡)。

中国共産党政治局常務委員会議で、習近平氏が「ウイルス事態を予防統制するために努力せよ」と指示。

2020年1月9日

退勤するとき、受付にいた患者が、皆がいるところで咳き込んでいるのを目撃した。・・・しかし、まだ「人・人感染」について外部には知らせなかった。ただ内部だけでマスク着用など感染予防を強調しただけで、それは矛盾していた。ある医師が白衣の上に防護服を着用すべきだと提案したが、院内の会議で「ダメだ。外から見られたらパニックを引き起こす」と却下された。そのため、私は救急科全員に白衣の下に防護服を着させた。・・・患者は増え続け、感染エリアは拡大するばかりだった。・・・私は「人・人感染」が起きていると確信した。もし、そうでないとすれば、1月1日に海鮮市場はすでに閉鎖されたのに、なぜ患者が増え続けるのか?当局は9日「専門家チームが新型コロナウイルスを7日夜までに検出した」と発表した。

2020年1月11日

11日の朝、救急科の緊急治療室の胡紫薇看護師が感染したという報告を受けた。おそらく彼女は中心病院で感染した看護師の第一号だった。私はすぐに医務課の課長に電話で報告し、院内で緊急会議が開かれた。だが報告書の「両肺下葉の感染、ウイルス性肺炎?」というタイトルは「両肺に感染が散在」に変えるよう指示された。

新華社通信「人・人感染」を否定。「人から人への感染は確認されていない」という記事を配信。

台湾の別の感染症の専門家らと臨んだ中国側との専門家会合では「人から人への感染はない」と強調されたが、専門家なら当然示す感染者数の推移グラフを見せようとしないことなどから、「何かを隠していることに気づいた」という。荘氏は「感染者の具体的なケースをひとつずつ、しつこく聞き続けた」結果、ようやく中国側の責任者らしき人の口から「人・人感染の可能性は否定できない」との言質を引き出した。中国が公式に「人・人感染」を発表するより一週間以上も前のことだった。

2020年1月14日

WHOは14日の声明で「人から人への感染」は確認されていないと発表。

2020年1月16日

週の締めくくりの会で、ある副院長が「皆にはちゃんとした医学常識が必要だ。ベテラン医師はこんなことでやたらにパニックを引き起こしてはいかん」と発言した。別の幹部は「人・人感染などない。防げるし、治せるし、コントロールもできる」とまで言った。

2020年1月17日

江学慶医師(中心病院の甲状腺・乳腺科)が感染、入院。10日後、体外式模型人工肺(ECMO)での治療を開始するに至ったが、その後死亡。

2020年1月18日

私の周囲でも、一人また一人と倒れていった。18日、朝8時半、救急科で初めて医師が倒れた。彼は私に「主任、ぼくはやられました」と言った。発熱などの症状はないが、胸部のCT検査では肺がすりガラス状になっていた。まもなく、隔離病室の管理責任者の看護師長も倒れた。・・・救急科では40名以上の感染者が出た。

18日「万家宴」武漢市長主催  4万人集めて。(1月12日〜17日湖北省両会終了)

鍾南山氏、北京に飛び李克強氏に報告(習近平氏はミャンマー外遊、雲南視察中)

2020年1月20日

李文亮医師(中心病院の眼科)新型コロナ感染確認。その後2月7日死亡。

鐘南山博士(国家衛生健康委員会専門家グループ長で感染症研究の第一人者)が「人・人感染」を発表

2020年1月22日

夜、政府の関係部門に勤める知人から電話があり、救急科の患者の本当の状況について尋ねられた。(私)「個人を代表しているのですか?それとも政府を代表しているのですか?」(彼)「個人です」(私)「それなら、私も個人として真実を話しましょう。1月21日、救急科は1523名の患者を診察しました。通常の最も多い時の3倍です。その中で発熱している患者は655名です」。新華社のニュースサイト、新華網が1月22日に掲載した記事の見出しにはwuhan virus (武漢ウイルス)と記されている。

2020年1月23日   武漢封鎖

23日未明、「武漢封鎖」通知。その後WHOの会議が開始されるが、WHOによる非常事態宣言は延期されることとなる。この時WHOは「新型肺炎の発生を制御する中国の能力に自信を持っている」「中国への渡航や交易を制限する理由は見当たらない」「しかし、医療体制の整備が遅れている国への感染拡大防止を支援しなければならない」と声明を出す。しかもテドロス氏は武漢には行かず。

 

 

中国共産党政府との関係を見直そう(97)。武漢で何があったのか、検証する(3)。

2020年1月23日    武漢封鎖

2020年1月24日

朝、私は勤務交代の引き継ぎの時、全員で記念写真を撮ろうと呼びかけた、その写真を画像共有アプリで発信したが、お互い「おめでとう」などの言葉は交わさなかった。生きていればそれだけでいいと心で嚙みしめていた。しばらく前までは、時間通りに注射してもらえないなど、ちょっとしたミスでもトラブルを引き起こす患者や家族がいた。ところが、今や、そのようなことはなくなった。皆、突然襲ってきた打撃に意気消沈し、唖然としていた。患者が死んでも、家族は嘆き悲しまなくなった。死者があまりにも多かったからだ。「お医者様、どうか助けてください」という代わりに、「早く解脱させて(楽にして)あげてください」という家族さえいた。ある日、発熱外来診察の入り口で皆が5時間も順番待ちしていた。すると一人の女性がバタッと倒れた。毛皮付きの服、ショルダーバッグ、ハイヒールというファッションでなかなかオシャレだった。ところが誰も助けなかった。ずっと床に横たわっていた。やむを得ず、私は看護師と医師を呼び助けた。

WHO、緊急事態宣言を見送る。「人から人への感染も近親者や治療に携わる医療関係者にとどまっており、中国国外では報告されていない」とWHOの声明。

2020年1月26日

中国、海外団体旅行を禁止。地元政府  初動に批判集中「湖北省政府は23日になって武漢から出る鉄道や航空便を止めて市内を事実上『封鎖』したが、春節の帰省客のピークは20日だった。感染の拡大は止まらず、25日には封鎖の範囲をほぼ省全体に広げたが、後手に回ったとの指摘が多い」ー日本経済新聞

2020年1月27日

新型肺炎  世界経済に影、中国死者56人 感染2000人超、日米武漢退避に臨時便、首相「希望者全員を帰国」ー日本経済新聞

武漢市長「権限なしに情報公開できぬ」政府の責任示唆。「習近平指導部は党・政府機関を厳しく管理しており、当初から感染状況を把握していたのではないか」(朝日新聞)

WHOトップ北京入り、中国当局と協議。WHOの新型肺炎「中リスク」から「高リスク」に訂正。表記が誤りだったと公表。

2020年1月28日

李首相が武漢入り、中国患者4400人 死者106人ー日本経済新

2020年1月29日

緊急事態宣言回避に期待  中国主席 WHO事務局長と会談、

邦人206人武漢から帰国 退避第1陣ー日本経済新聞

2020年1月30日

朝、病院に来ると、銀髪の老人がいた。32歳の息子が亡くなったので、死亡証明書を受け取りに来たのだ。老人は渡された死亡証明書をじっと見つめ、目には涙が一滴も浮かんでいなかった。どう泣けばいいのか?どうしょうもない様子だった。身なりから、よそから出稼ぎに来たような感じだった。はっきりした診断のないまま、息子は死亡証明書という一枚の紙切れになってしまった。これも私が訴えたいことだ。救急科で死亡した患者は、診断や病状の確定さえできなかった。

2020年1月31日

WHO「緊急事態宣言」を出す。しかし「国境封鎖などの対策を取っている国もあるが、科学的な根拠は何かと問いたい。我々は推奨しない」とWHOのフサン委員長。また、テドロス氏は「中国国外の感染者数が少ないことに関し、中国に感謝しなければならない」と発言。

2020年2月1日

中国、感染1万人超、WHO後手に回った宣言、中国、人・資金で影響力「WHOは30日、新型コロナウイルスによる肺炎について緊急事態を宣言した。一週間前には「時期尚早」として見送ったが、患者数の急増を受けて方針転換した。対応が後手に回った背景に、WHOに対する中国の影響力を指摘する声もある。・・遅きに失したのではないか」ー日本経済新聞

2020年2月17日

(画像を最初に受け取り他に転送した)同済医学院の同期生から「すみませんでした」というメッセージが送られてきた。私は「いいえ、あなたが発信したおかげで、一部だが、即刻に注意喚起できました。李文亮たち8人がいなければ、あの状況を知る人はもっと少なかったでしょう」と答えた。

2020年2月21日

2月21日朝、病院の幹部に呼び出された。私にはいくつか聞きたいことがあった。例えば、あの時、譴責したことは間違いだと思わないかなど。私は謝罪を期待した、しかし、口に出す勇気はなかった。そして、誰からも、どのような場でも、私に対する謝罪はなかった。