(2)パトリシア・デユバル氏、『判決文を読んで「どのような法令に違反した行為をしたのか、がわかりませんでした」』

どのような法令に違反した行為をしたのか、がわかりませんでした

宗教法人法の81条の第一項第一号は宗教法人を解散させる規定です。今回の解散命令での根拠条文です。《法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると認められる行為をしたこと》

「法令に違反して」とあります。解散命令の決定文を最後まで読んだのですが、旧統一教会は教団として一体、どのような法令に違反したのか、がわかりませんでした

まず民事裁判で敗訴することは法令違反とは言えません。民法というのは私人間の法律関係を規律する法律です。国や地方自治体同士の関係や、国、地方自治体と国民の関係を規律する公法(刑法、行政法など)ではありません。私人間の権利の衝突、権利侵害について調整し解決を図るべく規律されたのが、民法709条となります。その条文をみてください。

《故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害したものは、これによって生じた損害を賠償する責任を負う》

この法律の条文は、不法行為を行った者に対し、他人に及ぼした損害の賠償を義務付けています。この法律に違反することとは、どういう場合でしょうか。それは不法行為と認定された者が命じられた損害賠償を支払わなかった場合となります。不法行為が認められたことが法律違反になるのではありません。不法行為や損害が認定されたことは、法令違反を構成しないのです。

日本に限りません。世界各国どこでもそうですが、誰かがしたことで迷惑を掛けられた、不快に感じた、自分が被害を受けた、権利を侵害されたーーと思ったら、その権利侵害を訴えて裁判所が不法行為だと認めてくれれば賠償されますよ、といっているに過ぎません。

そうして私人間の権利義務について調整を図ったということですか、法令違反とはいいません。むしろ賠償を支払ったわけですから、709条の規律に服し、遵守したことになるでしょう。

民法の不法行為を宗教法人の解散の根拠とすることは、国際法に照らしても問題があります。

以上正論6月号より

(1)パトリシア・デユバル氏「解散手続きは国際基準に違反」。国連は日本政府による世界平和家庭連合(旧統一教会)の解散請求をどのように見ているのだろうか。

パトリシア・デユバル氏(フランスの国際弁護士、国際人権法、特に宗教的少数派の権利を専門とする)は2024年9月に国連に「解散手続きは国際基準に違反」との報告書を提出しています。

月間『正論』6月号より

【「公共の福祉」に国連勧告】

実は、国連では、この公共の福祉という概念によって信教の自由を制限しないよう日本に2008年、2014年、2022年と3回にわたって勧告をしてきました。

2008年12月の自由権規約委員会が日本政府に行った勧告はこうなっています。

《締約国は、「公共の福祉」の概念を定義し、「公共の福祉」を理由として規約で保障された権利に対するいかなる制限も、規約で許されるは範囲を超えないようにするための法律を制定するべきである

2014年8月の勧告はこうなっています。

《当委員会は、「公共の福祉」の概念が曖昧かつ無限定であり、規約(第2条、第18条及び第19条)で許容される範囲を超える制限を許す可能性があることに対する懸念を、もう一度繰り返し表明する。当委員会は、前回の総括所見を踏まえ、締約国に対し、第18条及び第19条第三項に定められた厳格な要件を満たさない限り、思想、良心および宗教の自由または表現の自由に対していかなる制限も課さないよう強く求める》 

そして2022年11月の日本に関する最終審査後の総括所見において、委員会は日本政府に対してこう勧告しているのです。

《「公共の福祉」概念を明確に定義し、「公共の福祉」に基づく思想、良心、宗教の自由及び表現の自由に対する制限が、自由権規約で許容された範囲内に止まるよう確保すること

「公共の福祉」という概念自体を信教の自由を制限する根拠とするのは予見性や明確性を備えておらず、見直すべきだと言われていたのです。宗教法人を制限する場合は、伝統的規範や慣習法によるものであってもならないと述べており、ここに日本の裁判所が用いた「社会通念からの逸脱」のような曖昧な概念が含まれることは言うまでもありません。