(6)戦後最悪の人権侵害、拉致監禁に関わった人たち。ー伊藤芳朗弁護士の陳述よりー

宮村氏を意識されるようになった要因はまだありますか?

伊藤弁護士:  前にも触れましたが、1991年4月、元信者のWK氏を団長として、40名の元信者が統一教会を被告として損害賠償を求める「青春を返せ裁判」を提起しました。原告数は一次から三次訴訟まで含めると、合計59名に上りました。山口広弁護士は原告代理人の代表的存在で、私は弁護団の事務局長を務めました。

原告となった元信者らは、宮村氏が脱会説得させた人たちが一番多く、40人くらいいました。だから、口さがない人たちは「これは青春を返せ訴訟ではなく、宮村訴訟」だと揶揄していた。

1994年1月だったと記憶するのですが、「青春を返せ裁判」の原告団と弁護団とが共同で伊豆で合宿を行いました。この時私は原告側の主張を構成する上でひとつの理論的な試案として、「マインド・コントロール」自体は違法ではなく、「マインド・コントロール」が違法な目的に対する手段として悪用されることによって行なわれてはじめて違法になるという構成を提案しました。この試案は合宿の場では概ね受け入れられた感があったのですが、「マインド・コントロール」自体が違法だと主張していた宮村氏にとっては、多くの元信者から神格化されていた手前もあってか、私の存在が許せないものとなっていったようです。この頃から、宮村氏の私に対する個人的攻撃が始まりました。このため、私も宮村という人物について強い関心を持たざるを得なくなりました。

宮村氏のことをし調べられたわけですね?

伊藤弁護士:  そうです。宮村氏は水茎会という、統一教会信者の脱会を希望する父兄らの会を主宰し、毎週父兄らを集めて勉強会と称して集まりを持っていました。勉強会といっても、脱会者やその父兄の体験談を聞くというのがメインのようですが、父兄らは自分の子弟に対する脱会説得が行われるまで最低3年、多くは5〜6年この勉強会に通うことが要請されました。この間の会費は月1万円くらいでした。しかも子どもの脱会に成功した後も、毎月5000円くらい支援金を無期限に支払う習慣があったようです。あくまで習慣ですから、強制ではなく、5000円ではなく、1000円とか3000円の人もいたようですし、ある程度付き合って終わりにした父兄もいました。

このことを調べるきっかけになったのは、「いつまで謝礼金を払い続ければいいのか」と、ため息をつきながら、ある元信者の母親が私に話したことです。何人かの父母から話を聞きました。ある父母は「まだまだ勉強が足りないと、最低でも5年間待たせるんです。毎月1万、5年間で60万円も払うのです。脱会に成功しても協賛金といった名目でお金を払わなければならない」と言う。その結果、先に話したようなことが判明したわけです。

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(5)戦後最悪の人権侵害、拉致監禁に深く関わった人たち。ー伊藤芳朗弁護士の陳述よりー

〈これも私の体験と重なる。私は2000年から2年間ほど、南山大学の渡邊学宗教学教授と、オウム真理教の元信者の3人で「カルト学習会」を主催してきた。参加者は10数人から30人。メンバーはしんぶんきしゃ、出版社の編集者、元カルトメンバー、カルトに関心のある若者など多士済々であった。山口広弁護士は常連参加者だった。

ある日の勉強会のテーマは「保護(拉致監禁)説得」の是非についてであった。このテーマを選んだのは、当時、エホバの証人の信者が拉致監禁されたと、バプテスト連盟の草刈牧師を訴え、牧師が敗訴した事件があったからだ。

そのときに、私は山口弁護士に質問した。「ヨーロッパのように、カウンセラーが直接カルト信者に会って脱会説得するのではなく、信者を説得する家族をサポートするようにすべきではないか」

これに対して、山口弁護士はにべもなかった。苦い顔をしながら、「効率が悪いよ」。効率が悪いという意味は、家族だけで脱会説得するのであれば(つまり家族の話し合い)、時間がかかり過ぎる。保護(拉致監禁)説得のほうが脱会のスピードは早いという意味である〉

先程、宮村氏が荻窪栄光教会を追い出された頃から「何故あんな男を仲間に加えているんだ」という話が牧師たちのあいだにあったということでしたが、宮村氏も参加するような、拉致監禁に関わる全国の牧師たちの会合のようなものはあったのでしょうか。「原理運動対策キリスト者全国連絡協議会」という名称の集まりがあったようなんですが。?

伊藤弁護士:  だいたいそんな名前だったと思いますが、牧師たちが集まって会合を持ってたのは知っています。ただ我々弁護士らは脱会説得活動に関わらない方がいいと山口広弁護士から言われていたので、参加したことは一切ありません。今から考えると、後藤さんの事例のような犯罪的行為に弁護士が加担するわけにはいかないということだったのでしょう。

(4)その他宮村氏の問題点

乱暴な脱会のやり方以外に、宮村氏を意識されるようなことがありましたか?

伊藤弁護士:  統一教会信者らの中には多額の献金をする人がいますが、宮村氏のような脱会説得の専門家によって脱会した後には、統一教会に対して損害賠償請求をするようになります。裁判所もこの手の事件では原告を勝訴させることがほとんどですが、中には億単位の事件もありました。

宮村氏はこうした高額事件を特定の弁護士だけに、具体的な名前をあげれば紀藤正樹弁護士ですが、紀藤弁護士だけに回すということを行なっていました。

しかし、我々は運動体としてやっていたので、こうした事件は全部一回、全国弁連に上げて配分すべきだし、一部の弁護士だけが潤っても後継者は育たないことから、私は抗議したこともありましたが、宮村氏はこうした主張には一切お構いなしでした。

弁護士が潤うとは?

伊藤弁護士:  損害賠償請求で勝訴すると、弁護士報酬が発生します。示談交渉が妥結してもそうです。そのことを「潤う」と表現したのですが、問題は次のことにあります。すなわち弁護士報酬を含め献金などの返還金が戻ってくるということは、統一教会はそのお金を工面するために、また新たにお金を集めなければならない。献金されたものは日本でプールされるわけではなく、海外に送金されてしまっているからです。つまり、損害賠償金を勝ち取れば、新たな被害者を生むことにつながっていく。そのことが最大の問題なのです。

被害弁連の業務が相談だらけならいいのですが、損害賠償請求に関わってくると、どうしても矛盾が生じてくる。他の事件では認められないような請求も相手がカルト宗教だと安易に認められてしまう、という裁判所の傾向もありますが、統一教会側もお人好しなので、まともに争えば認められないような請求も全額和解で支払ってしまう。これでは依頼人の利益にはなっても、その負担を新たな被害者が負うことになるわけです。こうした矛盾に悩みながら活動していけばまだしも、弁護士の間に収入が稼げるという意識が生まれてくる。私が被害弁連に関わるようになった頃には、そうした「稼げる」という雰囲気がすでにありました。内部で議論もありましたよ。「ほんとうに被害を出したくないのだったら、そういう事件の引き受け方はおかしいのじゃないか」「こちらの被害を回復しようとしたら、また新たな被害を生んでしまう。このやり方はおかしいのじゃないか」

でもこういう根本的なことには、山口広さんは絶対にメスを入れない弁護士なんです。まあまあ、なあなあで、事を荒立てない。そのため、こうしたやり方はおかしいと批判して被害弁連を辞めた弁護士もいました。話を戻すと、高額の返還請求事件を宮村氏が紀藤弁護士だけに回せば、被害弁連は組織的に歪になっていきます。しかし、先ほど話したように、私が抗議をしても、宮村氏は知らん顔だった。