大阪都構想の必要性について考える(58)。平成14年秋、大阪市は財政非常事態を宣言していた。

大阪府議会で《大阪新都構想》について活発に議論されていた平成15年ごろの大阪市の財政状況はどうだったのでしょうか。

まず、市税収入ですが、平成11年度の決算額が7129億円に対し、平成15年度では6130億円と平成11年度と比較して約1000億円も市税収入が減少しております。

歳入額についても平成11年度1兆9193億円が平成15年度では1兆7570億円と約1600億円の減額となっております。

経常収支比率は平成14年度103.1、平成15年度102.5、平成16年度103.6と続きます。経常収支比率が100を越えると経常的な歳入だけでは経常的な歳出を賄えないということです。

市債残高については平成15年度末で一般会計で2兆7782億円、特別会計を含む全会計の市債残高は5兆4761億円でした。

このように当時の大阪市の財政状況は非常に厳しい状況にあり、平成14年秋に当時の磯村隆文市長が財政非常事態を宣言せざるを得ない状況にあったことがわかります。大阪府議会で《大阪新都構想》が活発に議論されたのはまさにこの時期でありました。

一方、大阪市や政令指定都市はその後どのように対応して行ったのでしょうか。平成22年に作成された「大都市財政の実態に即応する財源の拡充についての要望」(指定都市市長会、指定都市議長会)では、大阪市を含む政令指定都市の財政状況悪化の理由として、「一般市では都市規模が大きくなるに従い経常収支比率は改善されるが、指定都市では大都市特有の財政需要に対応する税財政制度が確立していないため、経常収支比率は悪化する。また、指定都市では多額のインフラの整備費が必要となり、地方債償還額が大きくなるため、実質公債比率は大幅に増加し、地方債現在高も突出して高い水準となっている」という説明がなされています。そして、現在の指定都市制度では「大都市特有の財政需要に対応する税財政制度が確立していない」から「厳しい大都市の財政状況」が生まれているとし、「大都市の特性に合った税財政制度の構築」を国に要望しています。

大阪府(道府県)と大阪市(政令指定都市)の考え方の違い、発想の違いが分かります。大阪市は大阪市の権限と財源をより強化する都市制度改革によって、大阪府は府市再編による新しい大都市制度により政令指定都市制度の構造的欠陥を克服するとともに、大阪市域だけでなく大阪全体を発展させて行こうと考えていたことが分かります。税財政制度に構造的欠陥がある指定都市制度が大都市財政逼迫の大きな要因であったことは指定都市の説明ですから間違いないと思います。しかし指摘しておかなければならないのは大阪の場合、府と市の二重行政による不(府)幸(市)せな関係による政策の不一致や税金の無駄遣い、また組合が大阪市政を牛耳っていたことなども重大要因であったことは特筆されなければなりません。

 

大阪都構想の必要性について考える(57)。「政令指定都市制度」について、政令指定都市はどのように考えているのか。

ここに平成21年3月に政令指定都市市長会がまとめた「第2期地方分権改革に関する指定都市の意見」(第4次提言)という資料があります。その中に政令指定都市制度に対する評価の記述があります。

「現行の指定都市制度は、50年以上も前に『暫定的な措置』として創設された特例的・部分的で一体性・総合性を欠いた事務配分となっている。それに見合った税財源措置がなされていない、道府県との役割分担が曖昧となっているなど、あまりにも多くの課題をかかえている」と指摘し 、国に対して

「大都市の実態に即応した税財政制度を含め、『大都市制度のあり方』について早急に検討すること」を求めています。

そして検討にあたっては「広域自治体から独立して存在する『特別市』や『大都市州』なども含め、様々な制度を視野に入れて検討を行うべきである」としています。

政令指定都市自身が、政令指定都市制度の限界を認め、新たな大都市制度を模索しているのがよく分かります。ただ、ここでは府市の再編を伴う『大阪都構想』のような発想はなく、『特別市』や『大都市州』を求めていることから、道府県から政令指定都市に財源と権限をさらに集中させることを考えています。そして、さらには

「従来、国、都道府県が対応することとされてきた大都市地域の課題であっても、大都市自身が周辺の市町村と連携しながら処方箋を用意するという役割を付与すべき」とも記されています。大都市が道府県に取って代わるとでもいうことなのでしょうか。

本来、道府県や周辺の市町村に入るべき税金を大都市に優先配分することによって、自身や周辺の都市問題が解決し、さらには少子高齢化という「国難」に対応できるとでもいうのでしょうか。はなはだ疑問であります。道府県の役割、市町村の役割等については明記されておりませんので、これでは単に政令指定都市の財政難から生まれてきた狭小な発想のようにしか思えてなりません。それは次のような要望を掲げていることからもわかります。

「このような大都市特有の財政需要が歳出増の要因になっているが、大都市特有の財政需要に対応した税財政制度が確立していないこと、事務配分の特例に対応した措置が不足していることなどから、自主財源による歳入の確保は難しい状況にあり、債務の増大を招いている。大都市は裕福ではなく、財政状況は全国と比較して厳しい状況にある」と主張しています。

政令指定都市市長会の要望には、「無駄を無くす」とか、都市の成長によって「自ら税収を稼いでいく」とか、「住民自治を拡充する」といった発想は全くないのでしょうか。ここに『大阪都構想』との根本的な違いがあります。