大阪の都市制度改革の必要性について考える(40)。区役所について、共産系労組の主張を考える。

私の手元に「ベテラン市職員の告発、大阪市役所のナカは闇」という本があります。著者は初村尤而さん(当時、大阪市役所労働組合浪速区役所支部執行委員)です。1991年初版、出版元は日本機関紙出版センターです。共産党系ということでしょう。少し古い話(26年前)になって申し訳ないのですが、ちょっとこの本を見てみたいと思います。この本の中の21章に《役立たずの区役所、そのからくり》という項目があります。その中で著者は、

「区役所は大阪市政の第一線の役所。何か困ったことがあったら、区役所に言いに行けば何とかしてもらえるのではないか、と区民ならそう期待しているのですが、どっこいそれほど甘くない。実際は、思ったほど頼りがいがないのが区役所の現実です」。との書き出しで始まります。続いて、

「例えば『近くの公園の街灯が消えているから直して欲しい』とか、『国民健康保険料の計算方法がおかしい』とか、『公金を勝手に使い込むとはけしからん』といった、ちょっと込み入った話になると、『区役所ではどうにもなりません』と断られるか、せいぜい『関係先に連絡しておきます』といわれるのがおちです。結局、大事なことは中之島の本庁や他の部署が決め、ただ窓口で受け付けたり、税金を集めたりするだけが、区役所の姿なのです。区長なんか、ただのヘソだと悪口をたたく人もいます。区役所が大事なところで頼りがいがない、というのはそういう意味です」。「区民全体のために使われるお金はほとんどなく、中之島の本庁が全てを握っていると言ってもいい現状です。これでは区民がいろいろやってほしいと思っても、できるわけがありません」。と区役所の問題点を指摘しています。

次に「区役所をつくり変えよう」と呼びかけ、

「今みたいな区役所ではどうしょうもないから、これを改革しようという提案が、6年前に発表されました。・・・まず改革の第一段階として、区民が主人公になる行政区に近づけるため、①生活道路や小さな公園、それに保育所や老人センターなど地域的な社会福祉施設の維持管理や、ある程度の規模までの土木工事の施工などは区役所でする。②区役所と区長の権限をもっと強くし住民要求の解決に役立つ区役所にする。③土木公営所や清掃事務所、保健所、保育所など区内にある事務所などを区役所に統合してしまって、区民の要件の多くが区役所でかなえられるようにする、という提案です」。

そして「いっそ区長は選挙で決めたら」として、

「そして第二段階が画期的です。①区民の選挙で選ばれた代表による区民議会を設けて、区民の声を区政に反映させるようにする。②区長は、区民の選挙で選ばれた人を市長に任命させる、という提案です。こういう改革をすれば、今の区役所とは違って、区民にとって本当に役立つ区役所が登場するのは間違いありません」。と提案しています。

なかなかおもしろい提案ですね。当時としては大胆な提案、一考に値すると思います。ただ肝心の共産党からの議会での発言は、私はあまり聞き及ばず、発信力がないように感じます。この区役所改革は都構想の最重要課題であり、すでに橋下市政で大きく進んだ部分もあり、今は総合区の議論もなされるようにもなりました。しかし、最終的には区長や区議会議員を選挙で決める特別区制度の導入によって、初村氏が指摘された課題の多くは解決されるのではないでしょうか。

 

 

大阪の都市制度改革の必要性について考える(39)。立命館大学教授、村上弘氏の指摘について考える。

立命館大学教授村上弘氏の指摘する「都構想」のデメリットといわれる事について、長年地方政治の現場にいて、そこから得た経験をもとに、考えてみました。

村上氏は、デメリットとして1️⃣市の政策力が消え、大阪衰退。2️⃣ニーズのある市の高度施設が消え、大阪衰退。3️⃣旧大阪市の重要課題・民意の軽視。4️⃣直接に国と交渉できる政令指定都市の地位もなくなる。都市計画権も失う。市交通局の「完全」民営化でサービス低下。5️⃣ニーズのある市の高度施設が消え、不便になる。6️⃣自治体としての特別区が競争。切り下げ、格差も。7️⃣大阪市と横浜、神戸などの競争が消える。8️⃣市の職員組織がスケールメリット、専門性を失う。9️⃣24区ごとの施設や地名が消えるおそれ。以上9点を都構想のデメリットとして列挙しています。そして代替案として「府市調整会議」を提案しています。その理由として①「再開発、都市基盤整備は(橋下知事以前)かなり府市が協力。京都などでも同じ」②「ムダな二重行政だけを、政策評価制度で減らす」としています。「府市調整会議」でムダな二重行政はなくせる、また府市協調が可能だと断言しています。そして③「総合区の導入」を提唱しています。

まず村上氏の提案について、総合区については現在案をまとめるところまで来ています。ただし、自民党は反対しています。「府市調整会議」を設置すればうまくいくとの提案ですが、大阪府・大阪市の関係が長い間、ふ(府)し(市)あわせと揶揄されてきたことを氏はご存じないようです。この府と市の不幸せな関係から莫大なムダを産んできた二重行政が行われたことを氏はご存知ないのでしょうか。大阪では「府市調整会議」に当たる「大阪会議」が導入されましたが、全く機能しなかったことを氏はご存じないのでしょうか。村上氏の提案は全く説得力を持ちません。

デメリットといわれる事について。1️⃣2️⃣の施設がなくなるとか大阪が衰退するとの指摘には違和感を感じ、単に氏の思い込みのように思われます。私はむしろ反対に大阪の成長の可能性を感じます。3️⃣については特別区は、議員・区長の選挙がありますので、民意を反映しないとの指摘は当たらないと思います。4️⃣広域行政は都に、基礎的行政は特別区が担うとの役割分担であります。政令指定都市は無くなりますが、国との交渉は広域行政でしっかりやります。地下鉄の民営化は議会の3分の2以上の賛成で可決しました。5️⃣根拠がなく思い込みではないでしょうか。6️⃣地域事情を反映した施策が行われる事によって地域の特色が生まれるということです。7️⃣東京都や世界の大都市との競争、また副首都として成長していくということです。8️⃣市職員は特別区役所の基礎的行政を担う職員に、また大阪全体の広域行政を担う職員になっていただきます。9️⃣地名は残していくというのが都構想の考えです。

以上ご指摘を拝見さしていただきましたが、単に学者の考えと政治家の考えの相違だけではないとの感想です。