大阪都構想の必要性について考える(59)。4つの選択肢。

政令指定都市制度の構造的課題に大阪市がもがき苦しんでいた頃、大東文化大学法学部教授は『都市問題研究』(平成21年4月号)に「政令指定都市制度の課題と改革」という論文を寄稿しています。その中で、

氏は《政令指定都市制度の問題点》として『①基本的に一般市町村と同一の制度を適用②地方自治制度の中で、大都市の位置づけや役割が不明確③特例的・部分的で一体性・総合性を欠いた事務配分④府県との間で生じている二重行政・二重監督の弊害⑤大都市の財政需要に見合った税財政制度の不存在⑥大規模自治体としての住民自治・参加機能が発揮しにくい⑦指定要件が曖昧で、国の政策的判断に左右されやすい』と以上7点を指摘しています。税財政制度の欠陥や二重行政の弊害、都市内分権などを問題点として挙げています。

次に《政令指定都市制度改革の必要性》があるとして、不完全な政令指定都市制度の今後のあり方として、4つの選択肢を提示しています。

『そこで、指定都市制度そのものをどうするかという問題の方途としては、

①旧特別市制度の復活

②指定都市制度を存続したままでの拡充・強化

③指定都市制度を廃止して市を数段階に分けて、事務・権限の配分に段階ごとの差異を設ける方式

④都制の他の大都市への拡大等がある』としています。

①は指定都市市長会が求めている「大都市の特性に合った税財政制度の構築」という要望に合致しています。②については政令指定都市制度に構造的欠陥がある中で、さらに財政需要が増大していくことが予測される少子高齢化・人口減少社会に果たして対応できるのか、大きな課題があります。いま大阪市が検討している『総合区制度』は②に入ります。③は政令市を廃止して普通市に戻すということだと思いますが、全ての政令市を廃止するのは容易なことではありません。今大阪でチャレンジしている『大阪都構想』は④に該当します。

構造的欠陥を有する不完全な政令指定都市制度。ではその先にどのような都市制度を選択するのが最善なのでしょうか。大阪という地域にとって最善の都市制度は何なのか。今できることは何なのか。止まっていることはできません。次の道を選択し、前に進んでいかなければなりません。もう十二分に時間を使ってきました。これ以上時間の浪費は許されません。

 

大阪都構想の必要性について考える(58)。平成14年秋、大阪市は財政非常事態を宣言していた。

大阪府議会で《大阪新都構想》について活発に議論されていた平成15年ごろの大阪市の財政状況はどうだったのでしょうか。

まず、市税収入ですが、平成11年度の決算額が7129億円に対し、平成15年度では6130億円と平成11年度と比較して約1000億円も市税収入が減少しております。

歳入額についても平成11年度1兆9193億円が平成15年度では1兆7570億円と約1600億円の減額となっております。

経常収支比率は平成14年度103.1、平成15年度102.5、平成16年度103.6と続きます。経常収支比率が100を越えると経常的な歳入だけでは経常的な歳出を賄えないということです。

市債残高については平成15年度末で一般会計で2兆7782億円、特別会計を含む全会計の市債残高は5兆4761億円でした。

このように当時の大阪市の財政状況は非常に厳しい状況にあり、平成14年秋に当時の磯村隆文市長が財政非常事態を宣言せざるを得ない状況にあったことがわかります。大阪府議会で《大阪新都構想》が活発に議論されたのはまさにこの時期でありました。

一方、大阪市や政令指定都市はその後どのように対応して行ったのでしょうか。平成22年に作成された「大都市財政の実態に即応する財源の拡充についての要望」(指定都市市長会、指定都市議長会)では、大阪市を含む政令指定都市の財政状況悪化の理由として、「一般市では都市規模が大きくなるに従い経常収支比率は改善されるが、指定都市では大都市特有の財政需要に対応する税財政制度が確立していないため、経常収支比率は悪化する。また、指定都市では多額のインフラの整備費が必要となり、地方債償還額が大きくなるため、実質公債比率は大幅に増加し、地方債現在高も突出して高い水準となっている」という説明がなされています。そして、現在の指定都市制度では「大都市特有の財政需要に対応する税財政制度が確立していない」から「厳しい大都市の財政状況」が生まれているとし、「大都市の特性に合った税財政制度の構築」を国に要望しています。

大阪府(道府県)と大阪市(政令指定都市)の考え方の違い、発想の違いが分かります。大阪市は大阪市の権限と財源をより強化する都市制度改革によって、大阪府は府市再編による新しい大都市制度により政令指定都市制度の構造的欠陥を克服するとともに、大阪市域だけでなく大阪全体を発展させて行こうと考えていたことが分かります。税財政制度に構造的欠陥がある指定都市制度が大都市財政逼迫の大きな要因であったことは指定都市の説明ですから間違いないと思います。しかし指摘しておかなければならないのは大阪の場合、府と市の二重行政による不(府)幸(市)せな関係による政策の不一致や税金の無駄遣い、また組合が大阪市政を牛耳っていたことなども重大要因であったことは特筆されなければなりません。