国家やメディアがつくる「フェイク」について考える(5)。日本のメディアの場合(1)

テレビの報道番組では、このようにして「フェイク」がつくられ拡散していくのだと、改めて感じさせられました。視聴者はよもやこのようなカラクリ(やらせ)があるとはつゆだに思いませんから、信用してしまいますね。報道番組でやらせが行われたというのですから特に悪質と言えます。9月3日の日本経済新聞に掲載された小さな記事(問題は重大)を紹介します。このようなことが他にもあるのではないかと心配になります。

テレ朝報道番組  倫理違反を指摘ーBPO「過程が不適切」ー

「放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会は2日、業務用スーパーを取材した企画で、スタッフの知人を初対面の買い物客と装ったテレビ朝日の報道番組『スーパーJチャンネル』について、過程が適正とは言い難いとして『放送倫理違反があった』とする意見を発表した。問題があったのは2019年3月15日の放送回。検証委は番組に登場した4人の客と客の知り合い1人が、担当デイレクターの知人だったと認定。事前に取材日程を教えていたとし、『事実を客観的かつ正確、公平に伝えることは、報道番組の命。本来ならその場に現れるはずのない【客】を偶然を装って登場させたという点で公正さを欠いていた』と断じた。テレビ朝日広報部は今回の不適切な演出は視聴者の皆さまの信頼を損ねる行為であり、改めて深くお詫びいたします。BPOの決定を真摯に受け止め、今後の番組制作に生かしてまいります』とのコメントを発表した」。

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テレビ朝日広報部の「真摯に受け止め、今後の番組制作に生かしてまいります」、この言葉を信じたいと思いますが、まずは事実関係についてもっと詳細な報告がなされるべきであります。 カラクリ(やらせ)操作によってどんな「フェイク」を発信したのか?たわいもないことであったのか?それとも世論操作の意図があったのか?放送倫理に違反する行為の中身については何の報道もありません。いつ、誰が、どこで、何のために、何を行なったのか知りたいところですね。

〈持病が悪化して辞任を表明した安倍首相に対して、日本の世論の論調は冷たすぎる〉(石野シャハラン氏)との指摘を真摯に受け止めます。

9月19日配信のNewsweek 誌、イラン出身で日本人女性と結婚し日本国籍を持つ、異文化コミュニケーションアドバイザー・石野シャハラン氏(SHAHRAN ISHINO)の〈安倍首相の辞任で分かった、人間に優しくない国ニッポン〉との指摘に大きなショックを受けました。記事の中でシャハラン氏は、

「私は決して安部首相の約8年間の政権運営全般を素晴らしいものだったとは言わない。新型コロナウイルス対策にも言いたいことはある。しかし、それでも今回の辞任表明に対する論調は冷たすぎると感じる。彼は自分の意思で政治家になり首相になったのだから、馬車馬のように働いて当然、健康も私生活も顧みられなくて当然、死ぬ気で働いて当然。多くの日本人はそんな風に考えているのだろうか」

「彼は曲がりなりにも、約8年間も身を粉にして総理大臣を務めてきた生身の人間である。彼の政治的野心や業績は脇に置くとしても、持病の悪化を押して勤めに当たってきたのはどれほどつらいものか、そのせいで辞任するのはどんなに悔しいものか、想像するに余りある。病気は彼のせいではない。それを『溺れる犬は石もて打て』とばかりに責め立てるのは、人として冷酷すぎると私は思う」

「私は日本社会が、病気を持つ人も、障がいのある人も、老いも若きも、等しく大事にされ尊重される社会であってほしい。日本人が概して勤勉であることはよく理解しているが、病気や家庭の問題などで職務を十分に全うできない人に対して、時に厳しすぎる。日本の会社や学校で、そんなにひどい病気じゃないでしょとか、根性を出せとか、怠けているんじゃないの、というような心ない言葉を何度も聞いてきた」

「なんて優しくない社会なのだろう、と思った外国人や外国にルーツを持つ日本人は私だけではないと思う。多様性だ、ダイバーシティだと声高に言われるが、それは異文化や宗教、外国語に限った話ではない。たとえ意見の合わない他人でも、体調の悪い人をいたわり、孤立している人には何かできることはないかと言葉をかけること、それが多様性のある社会への第一歩である」

この言葉は、私を含め日本の政治家やメディアは肝に銘じなければならないことだと思います。