(5)戦後最悪の人権侵害、拉致監禁に深く関わった人たち。ー伊藤芳朗弁護士の陳述よりー

〈これも私の体験と重なる。私は2000年から2年間ほど、南山大学の渡邊学宗教学教授と、オウム真理教の元信者の3人で「カルト学習会」を主催してきた。参加者は10数人から30人。メンバーはしんぶんきしゃ、出版社の編集者、元カルトメンバー、カルトに関心のある若者など多士済々であった。山口広弁護士は常連参加者だった。

ある日の勉強会のテーマは「保護(拉致監禁)説得」の是非についてであった。このテーマを選んだのは、当時、エホバの証人の信者が拉致監禁されたと、バプテスト連盟の草刈牧師を訴え、牧師が敗訴した事件があったからだ。

そのときに、私は山口弁護士に質問した。「ヨーロッパのように、カウンセラーが直接カルト信者に会って脱会説得するのではなく、信者を説得する家族をサポートするようにすべきではないか」

これに対して、山口弁護士はにべもなかった。苦い顔をしながら、「効率が悪いよ」。効率が悪いという意味は、家族だけで脱会説得するのであれば(つまり家族の話し合い)、時間がかかり過ぎる。保護(拉致監禁)説得のほうが脱会のスピードは早いという意味である〉

先程、宮村氏が荻窪栄光教会を追い出された頃から「何故あんな男を仲間に加えているんだ」という話が牧師たちのあいだにあったということでしたが、宮村氏も参加するような、拉致監禁に関わる全国の牧師たちの会合のようなものはあったのでしょうか。「原理運動対策キリスト者全国連絡協議会」という名称の集まりがあったようなんですが。?

伊藤弁護士:  だいたいそんな名前だったと思いますが、牧師たちが集まって会合を持ってたのは知っています。ただ我々弁護士らは脱会説得活動に関わらない方がいいと山口広弁護士から言われていたので、参加したことは一切ありません。今から考えると、後藤さんの事例のような犯罪的行為に弁護士が加担するわけにはいかないということだったのでしょう。

(4)その他宮村氏の問題点

乱暴な脱会のやり方以外に、宮村氏を意識されるようなことがありましたか?

伊藤弁護士:  統一教会信者らの中には多額の献金をする人がいますが、宮村氏のような脱会説得の専門家によって脱会した後には、統一教会に対して損害賠償請求をするようになります。裁判所もこの手の事件では原告を勝訴させることがほとんどですが、中には億単位の事件もありました。

宮村氏はこうした高額事件を特定の弁護士だけに、具体的な名前をあげれば紀藤正樹弁護士ですが、紀藤弁護士だけに回すということを行なっていました。

しかし、我々は運動体としてやっていたので、こうした事件は全部一回、全国弁連に上げて配分すべきだし、一部の弁護士だけが潤っても後継者は育たないことから、私は抗議したこともありましたが、宮村氏はこうした主張には一切お構いなしでした。

弁護士が潤うとは?

伊藤弁護士:  損害賠償請求で勝訴すると、弁護士報酬が発生します。示談交渉が妥結してもそうです。そのことを「潤う」と表現したのですが、問題は次のことにあります。すなわち弁護士報酬を含め献金などの返還金が戻ってくるということは、統一教会はそのお金を工面するために、また新たにお金を集めなければならない。献金されたものは日本でプールされるわけではなく、海外に送金されてしまっているからです。つまり、損害賠償金を勝ち取れば、新たな被害者を生むことにつながっていく。そのことが最大の問題なのです。

被害弁連の業務が相談だらけならいいのですが、損害賠償請求に関わってくると、どうしても矛盾が生じてくる。他の事件では認められないような請求も相手がカルト宗教だと安易に認められてしまう、という裁判所の傾向もありますが、統一教会側もお人好しなので、まともに争えば認められないような請求も全額和解で支払ってしまう。これでは依頼人の利益にはなっても、その負担を新たな被害者が負うことになるわけです。こうした矛盾に悩みながら活動していけばまだしも、弁護士の間に収入が稼げるという意識が生まれてくる。私が被害弁連に関わるようになった頃には、そうした「稼げる」という雰囲気がすでにありました。内部で議論もありましたよ。「ほんとうに被害を出したくないのだったら、そういう事件の引き受け方はおかしいのじゃないか」「こちらの被害を回復しようとしたら、また新たな被害を生んでしまう。このやり方はおかしいのじゃないか」

でもこういう根本的なことには、山口広さんは絶対にメスを入れない弁護士なんです。まあまあ、なあなあで、事を荒立てない。そのため、こうしたやり方はおかしいと批判して被害弁連を辞めた弁護士もいました。話を戻すと、高額の返還請求事件を宮村氏が紀藤弁護士だけに回せば、被害弁連は組織的に歪になっていきます。しかし、先ほど話したように、私が抗議をしても、宮村氏は知らん顔だった。

(4)戦後最悪の人権侵害、拉致監禁事件に深く関わる人たち。ー伊藤芳朗弁護士の陳述よりー

一組になってやっていたというと、具体的にはどういう関わりだったのですか?

色々なパターンがありましたが、宮村氏の手配で拉致監禁を行い、監禁中の信者に対してさんざん罵って、信者が脱会すると言明した後、松永牧師合致担当するといったパターンが多かったと聞いています。

宮村氏のやり方に疑問を持たれたのは、伊藤弁護士だけでしたか?

伊藤弁護士:  被害弁連ではヒーローみたいになっていましたが、脱会に関わる牧師さんたちからは相当疎まれていました。80年代終わり頃に荻窪栄光教会を追い出された頃から、「何故あんな男を仲間に加えているんだ」という話はずっとあったようです。人目を憚ることなく堂々と宮村氏と付き合っていたの牧師は松永師ぐらいでした。他にも神戸の高澤牧師とか、宮村氏と付き合っていた牧師はいたと思いますが、表立っての付き合いではなかったです。日本基督教団(プロテスタントの国内の組織では最大教団。86年以降、教団あげて「統一教会員の救出」に取り組んでいた)の牧師さんの中にも、宮村氏のことをよく思っていない人たちがいて、そういう人たちに話を聞くと、「あれはやりすぎだ」とか「私は宮村氏がやるようなことまでは家族にやらせていない」とか、そんな話が聞こえてきました。それで、宮村氏のやり方は信者への扱いが乱暴であることがはっきりしてきました。

その牧師さんたちの名前は?

伊藤弁護士:  杉本牧師、川崎牧師や吉田牧師だったと思いますが。

〈杉本誠氏は、愛知県岡崎市の西尾教会の牧師。山崎浩子さんの脱会説得に成功した牧師として有名になった。川崎経子氏は、この当時、山梨県都留市の谷村教会の牧師。その後、長野県小諸市に開設された「いのちの家」の所長。吉田好里氏は、日本基督教団に所属する新松戸幸谷教会の牧師。1999年、現役教会員・今利理絵さんが戸塚教会牧師の黒鳥栄氏と当時太田八幡教会牧師の清水与志雄氏を相手どって、拉致監禁を訴因とする損害賠償を請求する民事裁判を提起しました。それに対抗するために、日本基督教団の牧師が中心となって「黒鳥・清水両牧師を支援する会」が組織された。吉田牧師は同会の事務局長を務めた〉

どちらにも取材したことがありますが、杉本牧師は「宮村氏の保護(拉致監禁)説得は乱暴すぎる。僕の場合は、できるだけ信者を傷つけないように、場所は民宿の1階か2階で行なっている。むろん玄関、窓に中から外に出られないような鍵はかけない。宮村氏は南京錠だから」と話していました。川崎牧師は乱暴さに加え、宮村氏の女性問題のことも非難していた。それで思い出したのですが、前に取材したとき、女性問題のことも話されていましたね。

伊藤弁護士:  TYさん(「青春を返せ」裁判の原告)の父親が宮村氏の家に乗り込み、「娘の脱会は頼んだけど、あんたに娘を情婦にしてくれと頼んだ覚えはない」と怒鳴り込んだという話でしたね。

私が被害弁連に関わるようになった頃か、それ以前の話です。被害弁連や元信者の間では有名な話でした。父親が怒鳴り込んだとき、宮村氏の家に元信者がいたもんだから、噂はあっという間に広がったようです。

前にも聞きましたが、TYさんは山口広弁護士やっている全国弁連で、そこの事務職員をやっているSさんと同一人物でしたよね。これは宮村氏にも確認したことですが。

伊藤弁護士:  ええ、そいです。今でも全国弁連で事務をさせられているかは存じ上げませんが。

ところで、宮村氏が違法性の強い脱会方法をとっていることに、被害弁連で声を上げられたことはありますか。おそらく、表立ってなされたことはなかったと思います。当時は、統一教会と闘うことがメインで、内部問題を公にすると、内部矛盾が噴き出し、組織がガタガタになる。杉本牧師が個人的に宮村氏のの暴力性のことを私に話しても、それを公の場で問題にしなかったのも、そういう理由があったからだと思います。

伊藤弁護士:  それもありますし、元信者の要求は損害賠償請求です。悔しい思いとか屈辱的な思いはあっても、脱会の方法を問題にする人はいませんでしたから。そうした理由に加え、元信者から拉致監禁の話は聞いても、私が直接、拉致監禁の現場を見たわけではないことが大きい。

では、一切、口にしなかった?

伊藤弁護士:  コアな弁護士との打ち合わせの場だったか、個人的な場だったかは忘れましたが、山口広弁護士には「宮村氏のやり方は問題だよ」と疑問をぶつけたことがありました。そうしたら、山口さんはこういうのすよ。「伊藤さん、僕たちは信者が辞めた後のことに関わればいいから。辞める前のことに一切関わっちゃいけない」彼はそうしか言わない。狡いと思いましたね。

山口広弁護士は、宮村氏が拉致監禁説得をしていることを知っていましたか?

伊藤弁護士:  もちろん!です。