拉致問題がなぜ解決しないのか?「拉致の黒幕」(2)浜田聡参議院議員

浜田聡参議院議員YouTubeチャンネルの「拉致の黒幕」より

1990年9月の金丸訪朝団以降である、経済の逼迫により背に腹を変えられなくなった北朝鮮は、対日外交を徹底したリアリズムの方針に切り替えた。すなわち交渉相手を同じく左翼イデオロギーを持ち友好関係にあったはずの日本社会党から政権与党である自民党に乗り換えたのである。北朝鮮の狙いはズバリ、マネーだった。どんな形でもいいから、一刻も早く日本の経済援助を引き出し、自国の経済を立て直したい。その為に北朝鮮側がばら撒いたエサが利権である。効果は絶大だった。品格のない政治家たちが国益を忘れてこれに飛びついた。金丸以降も日本政界の実力者たちがこぞって国交正常化交渉に動いた。90年代は日朝関係が異常なほど急接近した10年だった。本書は拉致問題の解決を阻む日本のなかの金日成たちの罪を暴くと同時に、北朝鮮とその傀儡である朝鮮総連がいかに日本社会を蝕んできたかを系統立てて考察した研究書である。拉致問題が四半世紀を経て今なお何故解決しないのか。この本の中にその答えがあるはずだ。当初別冊宝島編集部からこのテーマを与えられた時には果たしてどんな本に出来上がるのか、まるで見当もつかなかったが、結果として日朝関係の裏面史をたどる他にあまり例を見ないユニークな本になった。

拉致問題はなぜ解決しないのか?「拉致の黒幕」(3)浜田聡参議院議員

金王朝の中堅たちの序章「日本のマスコミはなぜ北朝鮮に弱いのか」の一部を読みます。これだけで20数ページあるので、全部読むとかなりの分量ということで、金日成単独会見のエサに目がくらみということで、稲垣武さんというジャーナリストの方が書かれたものです。

「帰国運動から拉致問題まで北朝鮮に関する日本の世論をミスリードし続けた大マスコミ、とりわけ北朝鮮天国報道を垂れ流し続けた朝日新聞の罪が重い。北朝鮮の忠犬役を務めるメディアが存在する限りその謀略は大手を振ってまかり通るということですね。

北朝鮮は日本のマスコミに対して直接あるいはエージェントである朝鮮総連を通じて巧妙かつ執拗な工作を続けてきた。その手法は北朝鮮自身が徹底した情報閉鎖を行い、日本など外国のメディアに対して自由な取材を許さず、お仕着せ取材で自国に有利な報道を強いる一方、日本では言論の自由が基本的に許されている状況を巧みに利用して偏向した報道をさせるというものである。その結果、朝日などマスコミの多くは北朝鮮の工作に乗せられて、北朝鮮の実態や拉致工作について不徹底な報道しかせず、国民の北朝鮮に対する認識を誤らせてきた。それがやっと正されたのは2002年9月17日の日朝首脳会談で金正日総書記がそれまで韓国公安機関と日本によるでっち上げと言い張ってきた日本人拉致を認め、謝罪してからである。今こそ北朝鮮のマスコミ工作の歴史と実態を明るみに出し二度と瞞着されないようにしなければならない。

総連誕生と在日朝鮮人帰国運動。

1955年それまで日本共産党の指導下にあった在日朝鮮統一民族戦線が北朝鮮に帰属する立場を明確にした朝鮮総連となった後、朝鮮総連を通じてマスコミ工作が行われてきた。それが一挙に盛んになったのは、朝鮮総連誕生とほぼ同時に在日朝鮮人帰国運動が始まったからだ。それは朝鮮戦争で失った労働力を在日朝鮮人の帰国によって補充しようとした北朝鮮からの指示によるものだが、当初は在日朝鮮人の大部分が南朝鮮(韓国)出身者だったこともあって希望者はなかなか集まらなかった。朝鮮総連側はそれに対し帰国者は身一つで帰ればよく衣食住も至れり尽くせりに保証され、就職や進学も祖国が世話してくれると、北朝鮮地上の天国説を吹聴、帰国熱を煽ろうとした。同時に、日本のマスコミやジャーナリスト文化人に対しても、天国説の宣伝に努めた。朝鮮総連の宣伝だけでは在日朝鮮人もおいそれとは信じないが、第三者である日本の新聞や文化人が天国説を吹聴してくれれば客観性があるとして信じるだろうと踏んだからだ。

そのもくろみに100%応じたのが59年4月に刊行された日本共産党党首の宮本顕治の秘書格だった寺尾五郎氏の訪朝記『38度線の北』である。寺尾氏は同書の中で金日成首相の指導する千里馬運動、社会主義的増産競争のおかげで、北朝鮮は第一次五カ年計画が終了する61年には一人当たり生産額で日本を追い抜くから、日本が東洋一の国を自負していられるのはせいぜい今年か来年のうちだけであると断言。58年9月9日の建国10周年の祭典の夜、平壌の街で皆口を揃えて、とにかく自分でも信じられないんだ、日増しに自分の生活がぐんぐん良くなるんだ、予想もしなかった生活になっていくんだ、嬉しくて面白くて張り切り続けたと語ったと書いている。寺尾氏の熱に浮かされたような訪朝記を読んで北朝鮮へ行く踏ん切りをつけた人も少なくない。