古本屋さんで「朝鮮社会主義憲法」(白峰文庫、金日成、チュチェ思想国際研究所)という本を見つけました。この本は1979年4月発行、翻訳者は金日成主席著作翻訳委員会、発行者は安井郁、発行所、チュチェ思想国際研究所、東京都千代田区神田錦町3ー19楠本第三ビルとあります。
北朝鮮が巨額の金をつぎ込んで、世界にチュチェ思想を喧伝しようとした時代がありました。この本はそのような時代に北朝鮮の戦略によって出版されたものでしょう。内容は、1972年12月に成立した「朝鮮民主主義人民共和国社会主義憲法」について詳細に紹介しています。そして興味深いのは、その最後に、福島正夫前東京大学・早稲田大学教授という人物の“朝鮮社会主義憲法制定の意義”という論文が掲載されています。
その福島氏の論文は北朝鮮憲法やチュチェ思想を絶賛し次のように書かれています。
「1972年12月27日、朝鮮民主主義人民共和国最高人民会議第5期第1回会議で、朝鮮民主主義人民共和国社会主義憲法が採択された。これは、12月27日が、憲法節として国民の祝日にまでなったように、共和国の歴史に輝かしい一頁を切り開いたものである」
「独自のチュチェ思想を基幹とし、特色的なものをうちだしたのである。この意味で、朝鮮の新憲法は明らかに先駆的役割を果たしたといえるのである」
「最後に、共和国72年憲法と、それとほぼ同時に発表された『大韓民国憲法』すなわち維新憲法と称するものとが、まさに天国と地獄、光と影であることにふれたい。・・・維新憲法の前には絶望のみがあるが、チュチェ憲法のまえには未来が開かれている」と締めくくられています。
北朝鮮を盲目的に賛美しているのがわかります。しかし現実は、朝鮮民主主義人民共和国は地獄のような社会であり、反対に大韓民国は北朝鮮と比較すれば天国であることは周知の事実であります。福島氏がこのような論文を掲載したのはなぜなのだろうか。はなはだ疑問であります。そうせざるをえない事情があったのだろうか。北鮮帰還事業で帰還した親戚がいるのでしょうか。脅迫されて、生き延びるために、書いたのでしょうか。それとも中国の孔子学院のように多額のお金を受け取ったからでしょうか。色々と想いが浮かんで来ます。それとも純粋に共産主義・チュチェ思想の信奉者なのでしょうか。
地獄を天国と偽って、あまりにも多くの人々を『凍土の共和国』に帰還させた帰国事業。この学者たちもこの戦後最大の人権事件に加担したことになるのだが。