どのような法令に違反した行為をしたのか、がわかりませんでした
宗教法人法の81条の第一項第一号は宗教法人を解散させる規定です。今回の解散命令での根拠条文です。《法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると認められる行為をしたこと》
「法令に違反して」とあります。解散命令の決定文を最後まで読んだのですが、旧統一教会は教団として一体、どのような法令に違反したのか、がわかりませんでした。
まず民事裁判で敗訴することは法令違反とは言えません。民法というのは私人間の法律関係を規律する法律です。国や地方自治体同士の関係や、国、地方自治体と国民の関係を規律する公法(刑法、行政法など)ではありません。私人間の権利の衝突、権利侵害について調整し解決を図るべく規律されたのが、民法709条となります。その条文をみてください。
《故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害したものは、これによって生じた損害を賠償する責任を負う》
この法律の条文は、不法行為を行った者に対し、他人に及ぼした損害の賠償を義務付けています。この法律に違反することとは、どういう場合でしょうか。それは不法行為と認定された者が命じられた損害賠償を支払わなかった場合となります。不法行為が認められたことが法律違反になるのではありません。不法行為や損害が認定されたことは、法令違反を構成しないのです。
日本に限りません。世界各国どこでもそうですが、誰かがしたことで迷惑を掛けられた、不快に感じた、自分が被害を受けた、権利を侵害されたーーと思ったら、その権利侵害を訴えて裁判所が不法行為だと認めてくれれば賠償されますよ、といっているに過ぎません。
そうして私人間の権利義務について調整を図ったということですから、法令違反とはいいません。むしろ賠償を支払ったわけですから、709条の規律に服し、遵守したことになるでしょう。
民法の不法行為を宗教法人の解散の根拠とすることは、国際法に照らしても問題があります。
以上正論6月号より